語り継ぐ、いのちの尊さを〜東日本大震災を通して〜 齋藤高央(八木山支部)

2011311日、その日に
 私は五年前の震災当時、勤務先が石巻であり、当日は石巻漁港の裏にある取引先の事務所で融資に関する相談の応対中でした。融資手続きが終了する間もなく、大きな地震が発生し、事務所の中では危ないと判断し一斉に外に飛び出し、揺れが収まると事務所内の棚はすべて倒れ、片付け作業にも長時間を要する程でした。時計の時間は三時であったため、「自分も会社に戻ります」と取引先の社長に挨拶し、自動車に戻りました。
 エンジンをかけると、ラジオで大津波警報が発令されていることを知り、三時二十分には第一波の津波が到達するとの報道があったため、私は「あと二十分しかない。このままこの場所にいれば死ぬかもしれない」。間に合わない可能性と不安で焦っていました。
 取引先の事務所にまた戻り、「津波が来るため、早く高台に避難してください」と大声で声をかけ、周辺の企業の方々も一斉に避難し始めました。私も最初は日和大橋(ひよりおおはし)を渡り、近道をめざし車を走らせましたが大渋滞。時間も迫り、再度来た道を戻り山を抜ける牧山トンネルを目指し、何とか石巻市内の職場まで辿り着くことができました。
 到着後まもなく、津波が職場の目の前に押し寄せ、その時から石巻市内は冠水し、社員の誰も帰宅できず、五日間、職場で寝泊まりして過ごし、生れて初めて普段の生活の有り難さを痛感しました。津波により家族を亡くされた社員や自宅を失った社員も多く絶望的な数週間でした。
 震災から一ヵ月から二ヵ月は、職場の復旧作業と取引先の支援を行い、また私と同じ会社の社員十二名の捜索活動も行い、精神的にも肉体的にも疲労困憊で過酷な日々となりました。

◇自らの命の使い方
 そのような時、仙台教会の大法座で、当時の教会長さんからご指導を頂きました。
「齋藤くん。あなたは復興のために命を仏さまから頂いたのだよ。被災地の最先端で復興のための大仕事をさせて頂けることは大きな幸せじゃないか。被災された方々と共感はできても、同じ気持ちになれない。しかし、その人の気持ちは汲み取ることはできる。貴方自身が自立していかないと、相手の方も自立していかなくなるよ」
と自らが主体的になって、そして人さまのため、地域のために尽くすという、「自燈明・法燈明」を教えて頂きました。
 改めて仏さまから生かされた命に感謝し、心配してくれた家族や友人に感謝が足らなかった自分だと気づかせて頂き、同時に自分の命の使い方=使命を教えて頂きました。
 さらに、
「犠牲となられた社員の方のお戒名を頂戴し、毎月11日にはしっかりとご供養をさせて頂くと、その亡くなられた社員の方々が陰から仕事面でも応援し、守ってくださるよ」
と教会長さんからご指導を頂き、仕事にたいする仏心を頂くことができました。
 その後、震災当時、一緒にいた取引先の社長さんとも再会でき、その会社の社員さんも全員無事で、また周辺企業の方々も奇跡的に犠牲になられた方はいらっしゃいませんでした。
 あれから五年の歳月が過ぎ、その間、現在の妻と出逢い、結婚することができました。一年程前にはお陰さまで長女も授かり、いのちの尊さ、いのちの深さ、いのちの繋がりの中での私たち夫婦や娘を思い、今この時に感謝の心が溢れて参ります。
 また現在は仙台教会の「新宗教連盟(新宗連)担当」のお役を頂いています。複数の教団とふれあい、震災後から合同で被災地へ出向き、慰霊供養や支援活動を行ってきています。だんだんと慰霊供養や支援活動に参加してくださる教団や参加者が地方からも訪れるようになり、「新宗連青年会」の輪も広がってきています。
 さまざまな教団の方との交流の中で、立正佼成会の庭野開祖のお徳と偉大さを強く感じることができ、立正佼成会の一人の会員として、たいへん尊く、有り難く思います。
 立正佼成会100周年に向けて、東日本大震災で身をもって体験させて頂いたこと、その中から教えて頂いた「いのちの尊さ」を一人でも多くの人に語り、伝えていくことを私のこれからの人生の大きな使命の一つとして実践して参りたいと思います。

 

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