「ダメ。ゼッタイ。」 〜薬物乱用の現状と啓発活動の大切さ 1~ 深澤 逞(大崎地区薬物乱用防止指導員協議会 会長) 

 薬物乱用の根絶に向けての取り組みを長年にわたり続けていらっしゃる、深澤 逞先生(大崎地区薬物乱用防止指導員協議会会長、薬剤師、有限会社 健康堂薬局会長)から、薬物についての基礎的な知識と乱用の怖ろしさ、そして薬物乱用防止に向けての啓発活動についてお話を頂戴しました。今月から4回にわたって連載して参ります。

深澤先生 HP用

深澤 逞先生

◇薬物乱用の現状とその特徴
 まず、薬物乱用の現状とその特徴についてお話します。乱用される主な薬物として、以下の物があります。

種類

隠語(別名)

作用(感覚)

主な中毒症状

シンナー等(溶剤)

アンパン、ガスパン

酒に酔った気分

頭痛・嘔吐

記憶力低下、幻覚・妄想、大脳萎縮、各臓器障害

大麻(大麻)

ハッパ、マリファナ

気分爽快

陽気になる

判断力・思考力低下、幻覚・妄想、狂乱状態

覚せい剤(マオウ等)

エス、スピード、シャブ、アイス

気分爽快、疲れや眠気がなくなり頭が冴える

脱力感、疲労感、幻覚・妄想、錯乱状態

コカイン(コカ)

コーク、クラック

覚せい剤と同じ作用・感覚

幻覚、自傷行為

アヘン等(ケシ)

ベー、チャイナホワイト

酒に酔って酩酊した気分

身体全体が砕けるような激痛、失神、精神異常

MDMA、LSD(合成麻薬)

エクスタシー、エルアシッド

幸福な気分

不安、不眠、錯乱状態、幻影感覚(物がゆがむ)、幻覚・幻聴、分裂症状

危険違法ドラッグ(脱法ハーブ)

 

酒に酔って酩酊した気分

幻覚・妄想、精神障害強い依存症

 上記の表に主な中毒症状も記載しましたが、薬物の乱用によって精神的な障害だけではなく、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、生殖器などといった身体にも多大な障害をもたらします。いわば、薬物の乱用は心身共に大切な健康を喪失してしまう、とても怖ろしい行為です。
 日本における平成27年の薬物の情勢は、薬物による犯罪の検挙人員が約13,000人で微増傾向にあります。

◇薬物乱用の約8割が「覚せい剤」
 乱用されている薬物の約8割は「覚せい剤」で、検挙された人員は約1,000人にのぼり、その再犯率は約6割と非常に高くなっています。また、中高年者(40~50歳代)の乱用者が増加傾向にあります。
 「覚せい剤」とは、「メタンフェタミン」と「アンフェタミン」の二つの有機化合物を指します。特に「メタンフェタミン」は、日本で「エフェドリン」という有機化合物から合成されたもので、「エフェドリン」はもともと咳止め効果のある生薬の麻黄(マオウ)の成分です。白色、無臭の結晶で水に溶けやすい性質を持っています。
 1941年に「ヒロポン」などの販売名で発売され、第二次世界大戦時には軍需工場の労働者が徹夜作業を行う際に「ヒロポン」を服用していました。戦後、この「覚せい剤」が大量に民間に放出され、戦後混乱期の虚無的享楽の手段として乱用されました。
 日本では、「覚せい剤」の乱用期を三期に分けています。

「第一次覚せい剤乱用期」は、この戦後の混乱期、昭和20年後半から30年代初めごろで、ピークとなった昭和29年には史上最高の約5万6千人が検挙されました。

「第二次覚せい剤乱用期」は昭和50年代で、暴力団を中心とした密売ルートの組織化や犯罪組織の介入により、昭和59年には検挙者が約2万5,000人にのぼりました。昭和56年には「深川通り魔事件」という、薬物乱用者による殺人・立てこもり事件が発生しています。

そして、現在が「第三次覚せい剤乱用期」と言われています。特徴は低年齢化で、中高生の乱用者が急増しています。平成9年の検挙者数が最も多く約2万人で、未成年者の検挙者数は全体の約7~8%に達していました。昭和40年代の1%前後と比べ、未成年者の割合が大きく増加していることがわかります。

◇危険ドラッグとは?
 「覚せい剤」に次いで多いのが、「危険ドラッグ」(「脱法ドラッグ」、「違法ドラッグ」。平成26年、日本政府が「危険ドラッグ」と新呼称を発表)です。「シンナー」などといった有機溶剤に代わって急増しました。当初は「合法ハーブ」などと称して身近な店舗でも売られていました。
 「危険ドラッグ」には、既に規制されている麻薬や覚醒剤の化学構造を少しだけ変えた物質が含まれており、身体への影響は麻薬や覚醒剤と変わりません。それどころか、麻薬や覚醒剤より危険な成分が含まれていることもあります。例えば、乾燥植物に大麻に似た作用を持つ薬物(合成カンナビノイド)を混ぜ込んで造ったものもあります。
 法の網をくぐりぬけるために「お香」「バスソルト」「ハーブ」「アロマ」など、一見しただけでは人体摂取用と思われないよう偽装して販売されています。色や形状もさまざまで、粉末、液体、乾燥植物など、見た目ではわからないように巧妙に作られています。またデザインされたパッケージやカラフルな色彩の液体は危険薬物に見えないため、「キレイ」、「かっこいい」という印象を持ってしまいますが、中身は売っている方もわからない恐ろしい薬物です。
 平成26年に法律が改正され、また2,356物質を指定薬物とし(平成28年12月末現在)、平成26年3月には全国で215店舗あった「危険ドラッグ」販売店舗も平成27年7月には全滅しました。仙台市にも8店舗ありましたが、すべて摘発されています。
 しかし、現在でも”雑貨ショップ”や”セレクトショップ”を装った店舗で販売されていたり、インターネットを利用した通販(危険ドラッグ販売サイト)や「ブログ」などによる転売など、乱用する人が後を絶えません。
 平成26年6月に東京都豊島区池袋で発生した、30代男性の危険ドラッグ吸引による自動車暴走事故を記憶されている方も多いかと思います。

◇約半数が10代、20代の「大麻」と向精神薬の乱用
 「大麻」については、平成27年の検挙人員は約2,100人で、平成22年以来5年ぶりに2,000人を超えました。私たちが注意しなくてはならないのは、「大麻」の乱用者の5割、すなわち約半分が未成年者および10代、20代の青少年層であるということです。
 さらに、「向精神薬」の乱用も増加しています。向精神薬とは睡眠薬や鎮静剤などの総称で、バルビツール酸という成分を含む医薬品をさします。もともとは不眠やイライラなどを抑えるための薬ですが、これらも乱用すれば怖ろしい薬となります。
 向精神薬を乱用すると身体の緊張をときほぐし、リラックスした気分をもたらしますが、乱用の日常化によって慢性的な倦怠感があらわれ、筋肉の運動機能も低下しだんだんと普通に歩けなくなってゆきます。感情は不安定で妄想も現れ、突然凶暴になったりもします。

 以上、主な薬物乱用について述べてきましたが、その背景には暴力団がらみが50パーセントを占めている現状があることも、ぜひ覚えておいてください。

「ダメ。ゼッタイ。」

薬物乱用問題は、全世界的な広がりを見せ、私たちが住む国・日本もその例外ではありません。
人間の生命はもとより、社会や国の安全、安定を脅かすなど、人類が抱える最も深刻な社会問題の一つとなっているのです。

(次回に続く)
※次回は、9月1日に更新予定です。

金魚

ダメ。ゼッタイ。

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