こころの彩時記6「レッド」or「イエロー」
- 2016/10/29
- 自分を創る
我が国に和歌の世界では、「もみじ」と「鹿」がペアとなって、秋の歌として数多く詠(うた)われています。
例えば、有名なところでは、「百人一首」にも選ばれている次の歌があります。
奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき
猿丸太夫
しかし、「もみじ踏みわけ 鳴く鹿の~」と慣用句的に使われる「もみじ」という言葉に、なぜか歌によっては「紅葉」と「黄葉」というように「紅」と「黄」の2種類の使われ方がされています。ちなみに「鹿」は歌を詠っている人の、夫や妻あるいは恋人をさしていました。
実はこの「紅(赤)」と「黄」。日本の古代の人たちは、ある一つの大きな意味を持って、この2つの色を使い分けていたのです。「紅葉踏みわけ 鳴く鹿の」と日本の古代人が詠った場合、鳴いている鹿=愛する人がまだこの世に生きていることを表わします。
ところが、「黄葉踏みわけ 鳴く鹿の」と詠われた場合、その鳴いている鹿=愛する人はすでにこの世にいない、すなわち死別してしまった人を思い、慕って詠った歌を意味していました。
日本では死者の行く世界を、「黄泉の国(よみのくに)」と名づけ、黄色い泉の湧き出ている所としました。今でもその名残として入ってはいけない場所等には、黄色の看板やプレートがかけられたり、黄色と黒の縞模様のポールが置かれています。日本人にとって「黄色」は、古来、忌み嫌う色であったといえましょう。
一方、紅=赤は、古代では「朱色」と呼ばれ、魔除けの色、おめでたい色として大事にされていました。天皇の御所や神社・仏閣といった建物はすべて朱に塗られ、今でもお祝いの色は赤です。赤い魚の真鯛や赤飯、そして紅白のご祝儀袋、垂れ幕などが、このことを如実に物語っているといえます。
さて話はずぅーと遡って1950年代、清涼飲料水のコーラがアメリカからもたらされ、頭文字が「P」のコーラと「C」のコーラが熾烈なシェア争いをしました。また、1970年代後半、アメリカの「コル○○ト歯磨き」が上陸し、日本のメーカーは戦々恐々として迎え撃ちました。
しかし、どちらも日本では「赤」を貴重としたデザインがより多くの人に受け入れられました。真っ赤なラベルの「C」のコーラが、世界的シェアでは上のはずの青と黄色のラベルの「P」のコーラを席捲。また黄色を貴重としたデザインのアメリカの歯磨きは、やがて日本からほぼ撤退していきました。
このことにいち早く気づいた出版業界では、各出版社が自社で発行する出版物、特に週刊誌の表紙を飾るロゴをこぞって赤色にしました。今でも、週刊誌や女性向けのファッション誌などのほとんどが、その誌名ロゴに赤色を使っています。
2000年近くにわたり日本人の心の中で培われ、生き続けてきた「色(カラー)」に対する深層意識。
山々や木々が赤や黄色に美しく染まる季節となりました。今年も移り行く自然の色を楽しみたいですね。
このころの 秋の朝明(あさけ)に 霧隠り(きりごもり) 妻呼ぶ鹿の 声のさやけさ
(この頃の秋の夜明けは、紅色に染まる林にかかった霧の中で愛しい妻を呼び、鳴いている鹿の声が澄みきっていることよ)
『万葉集』より