「今を楽しみ、今を生きる・・・この瞬間を大切に」藤原英理花(かるぺでぃえむフォト代表)
- 2018/12/1
- 青年が創る
2012年11月「乳がん」の告知を受けた宮城県多賀城市の藤原英理花さん(34)。しかし、その中で今を生きることの大切さに気づき、がん患者やがんを体験した人のための写真撮影サービスの会社をたった一人から起業しました。今回は、その藤原英理花さんにご登場頂きます。
◇がん告知から起業への思い立ち
2012年11月、28歳の誕生日を迎える3日前に、私は乳がんの告知をされました。「がん」という診断に私は少なからぬショックを受けたものの、ある程度の覚悟していた私は冷静に受け止めることができました。
しかし、抗がん剤治療を始めて2週間ほど経つと、髪の毛が指でつまんだだけで抜けていきました。“髪は女性のいのち”とも言われていますが、私はその時、「女性としての自分の人生は終わった」と絶望の底に突き落とされました。やがては自分も人並みに結婚、出産、そして温かな家庭づくりといった「夢」や「願い」が無残にもすべて打ち砕かれ、私は泣き崩れました。
当時、東京都内で働いていた私は全身に転移したがんの治療のため、2016年12月に実家のある多賀城市に帰ってきました。
抗がん剤治療の副作用による脱毛、顔や身体のむくみ、私は半年間、ひきこもってしまいました。しかし、治療には高額な医療費がかかります。その支払いは老後の資金のための貯金をはたいて両親が負担してくれています。ほどなくして病気も落ち着いてきましたので、地元でのアルバイトなど仕事を探しましたが、ドクターストップがかかってしまいました。しかし、「このままではいけない。何とかしてお金を稼ぎたい」と思い、ドクターストップがかかる一般企業に勤めるのがだめならば、自分で事業を起こして自分のペースで仕事をしようと思いたちました。
私はたまたま参加した、がん患者のイベントで「アシ☆スタ」(仙台市起業支援センター)の存在を教えてもらいました。
「アシ☆スタ」とは、震災後に地域課題の解決や復興への貢献といった動機をもとに生まれてきた、さまざまな“起業”の芽を大切にし、その支援の拠点となることを目的として仙台市が立ち上げた施設です。
私には資金もなし、人脈もなし、資格や特技もなし。“なし、なしづくし”の私にとって、「アシ☆スタ」は起業の相談が無料。いろいろな相談にも乗ってもらい、またセミナーや交流サロンにも参加して、起業に向けての勉強をさせて頂きました。
◇今まで見たことのない自分!
そのような状況の中で、私が思ったこと。それは、次のことでした。
「私にあるのは、今、闘病している“がん”の経験、そして副作用によって脱毛した頭やむくんだ身体。そして、何よりも自分の心を覆っているコンプレックス。この負と思える“自分にあるもの”を生かしてみよう。逆に強味にしよう!!」
その時、テレビの番組やCM、ユーチューブなどでよく目にする、お化粧をする前とお化粧をした後での違いを表現する写真や画像が思い浮かびました。
早速、まず私自身からということで、仙台で知り合ったスタイリストをしているお友だちにお願いし、プロのコーディネート、プロのメイクアップ、そしてプロのフォトグラファー(カメラマン)に集まって頂きました。
そういったプロの方たちのチームの中で写真を撮ってもらったら、今の私が、今の私のまま素敵な私に変身できるかもしれない。
普段、自分では絶対に選ばないであろう服やアクセサリー。
普段、自分では絶対にしなかった「つけまつ毛」や濃いめのメイク。
普段、自分では絶対にしなかった手や足、身体の動きやポーズ、目線など。
出来上がった写真を見て、私は驚き、感動しました。自分の想像をはるかに超える自分。今まで見たこともない新しい自分がそこにいました。一番のコンプレックスだった髪の毛のない頭。見られたくなかった姿。それが、「みんなに見てほしい!!」。そう心から思え、さらなる生きる勇気が湧いてきたのです。
同時に、この感動を同じ「がんサバイバー」(注1)の方と共有したいと思いました。もしかしたら、がんになり私と同じような思いを抱えている人がいるのではないか?この経験、驚き、感動、そして希望、勇気を「がんサバイバー」の方たちに知ってもらいたい、共有したい。そう心から思えたのでした。
(注1)がん治療を終えた方だけではなく、がんと診断されたばかりの方や治療中、経過観察中の方など、すべての「がん体験者」のことを指します。
◇今を生きる-新たな人生の一歩
2018年5月、私は友だちのスタイリストの力を借りながらも、たった一人で「がんサバイバー」向けの写真撮影サービスの会社を立ち上げました。会社名は「かるぺでぃえむフォト」と名付けました。
「かるぺでぃえむ」とは、もともとラテン語で「Carpe diem」と書きます。紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスの詩に出て来る言葉で、直訳すると「その日を摘め」、現代では「今を楽しめ」、「この瞬間を大切にしろ」という意味で使われています。
さまざまなプロの方たちの力を頂きつつ、たとえ病気であっても今を生きる自分を輝かせ、「自分史上最高の“今を生きる写真”を撮る」、「最高の形で自分が“今を生きる証”を残す」。そんな「今を生きる」という思いを込めて、「かるぺでぃえむフォト」がこの世に誕生しました。
現在、お陰さまで週に一回の治療を続けながら、多くの人の支えの中で仕事を続けることができ、起業後、約半年が過ぎました。それぞれプロのフォトグラファー4名、スタイリスト2名、ヘアメイクアーティスト1名、そして代表の私を含めた8名で日々努力させて頂いています。
「がんサバイバー」の方たちが、私たちとの撮影に至るまでの服装選び、コーディネート、メイクといった準備、実際の撮影シーン、そして何よりも出来上がった写真を通して、
「こんな美しい自分もいるんだ」
「こんな今を生きている自分がいるんだ」
という新たな発見をして頂いたり、あるいは、
「こんな自分でも、何かまだできることがある」
「これからは、もっと勇気を持って生きていこう」
と気づいて頂き、新たな人生の一歩を踏み出すきっかけにしてもらえたら心から嬉しく思います。
海外では乳がんの手術の跡を美しく見せたり、脱毛した頭にペイントや飾り付けをして、記念として素敵な写真にして残している方がたくさんいらっしゃいます。まだまだ日本では目にすることはありませんが、求めている人は数多くいらっしゃるのではないかと思っています。
今後は宮城県や東北に限らず、日本全国に展開し、また世界にもはばたいていけたらどんなに楽しいことだろうと大きな夢を抱いています。そして、この事業を広げていくことで「がんサバイバー」の存在をもっとより良く知ってもらい、変に気遣うことなく、ごくごく普通にそっと寄り添える人たちが社会に一人でも多く増えてくれればと心から願っています。
※「かるぺでぃえむフォト」へのお問い合わせは、下記までお願い致します。
問い合わせ先:℡090-1931-9763(9時〜21時)
ホームページ https://www.carpediem-foto.com/
※本ホームページでご紹介させて頂いた、藤原英理花さんは今年2019年3月にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。