「貧困」に苦しむ子どもたちの力になりたい!! 小宮位之(NPO法人 八王子つばめ塾 理事長)

 昨年8月、仙台教会内で発足した「あおばの会」の定例行事として「第2回市民講演会」が9月24日(日)に開会されました。当日は、日本における「無料塾」のパイオニア的存在として、今、最も注目される小宮位之氏(NPO法人 八王子つばめ塾 理事長)をお招きして、以下の要項で開催されました。

 ○日 時:2017年9月24日(日)10:00~11:45
 ○場 所:せんだいメディアテーク 7階 スタジオシアター
 ○講演者:小宮位之氏(NPO法人 八王子つばめ塾 理事長)
 ○演 題:「いつか自分も人の役に立つ人になろう」と思う人材育成
 
○参加者:約150名
 ここでは、その小宮位之氏の講演要旨をご紹介します。

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「無料塾」への取り組みの大切さを語る小宮位之氏

◇「八王子つばめ塾」とは?
 特定非営利活動法人 八王子つばめ塾 理事長の小宮位之です。
 2012年9月に「八王子つばめ塾」が始まってまる5年が経ち、現在では90名を超える子どもたちが学んでいます。ボランティアの講師も70名を超えています。
 現在、日本では「教育格差」が進み、「子どもの貧困」が6人に1人、あるいは7人に1人と言われています。例えば、40名の教室があるとすると、6人から7人の子どもさんが、貧困で苦しんでいることになります。
 そのような状況の中、経済的に苦しいご家庭の中高生に対して、無料学習支援を行うことを目的として、「八王子つばめ塾」を開塾しました。「八王子つばめ塾」とは、経済的に苦しいご家庭の子どもたちのための学習支援を無料で行っている塾です。授業もボランティア講師が行っています。
 対象は中学生、高校生がメインです。授業は講師1名に対し生徒2〜4名で個別指導を行い、学校の宿題、ワークから入試対策まで幅広く勉強します。学習内容が不十分な場合、学年をさかのぼって基礎から教えています。

◇東日本大震災のボランティアがきっかけとなって
 私がこのような「無料塾」を始める大きなきっかけとなったのが、実は6年前に発生した「東日本大震災」です。震災直後、ボランティアで仙台に来ました。仙台を中心とした被災地の皆さんと共に復興に向けての取り組みをさせて頂いた後、東京に帰った私は街を歩く人たちの話し声に大きなショックを受けました。
「なんで計画停電なんだ」、「停電なんてまったく困ったもんだ」と、迷惑そうに言っている人たちの姿を見て、
(被災地では、多くの人がこんなにも苦しんでいるのに。みんな命がけで頑張っているのに・・・たかだか3時間止まるだけで・・・)
と私の心に憤懣やるかたない思いが込み上げてきました。
(こんな時だからこそ、少しでも人の役に立ちたい)。
 そんな思いが込み上げてきて、自分ではその心を抑えきれない状態でいた時、東京都国分寺市にあった「無料塾」というものを知りました。
 教職の経験があった私は、「無料塾」の設立こそ私の天命と思い、この「八王子つばめ塾」の立ち上げを決意しました。
 その1年後、義母の持っていた建物の1室を借りてスタート致しました。設立して半年後、当時勤めていた職場を辞め、非正規雇用に戻って活動に本腰を入れました。

◇「八王子つばめ塾」の目標、願い、そして理念

― 完全にボランティアで教えてくれる講師から学んだ子どもたちが、「いつか自分も人の役に立つ人になろう」と思う「人材」に育つこと ―

 これが八王子つばめ塾の大きな目標であり、本日の講演テーマの意味するところです。「つばめ」は、「またボランティアという巣に戻って来てほしい」という切なる願いからつけられました。

また、理念は以下の通りです。

現実に生徒の学力を上げてあげて、世の中を建て直したい。世の中を建て直すとは、自分さえ良ければいい、お金さえあればいいという考えを捨てて、いつか自分も人の役に立てるような人間になりたいという青少年を育てること

DSCF9343私が日々活動をしていて思うことは、

「つばめ塾の生徒の中から、次の時代を担う人材を輩出したい」

ということです。
 育った家庭にお金がないことで人生の希望が狭められたり、道が閉ざされることがあってはなりません。今学んでいる生徒が将来、社会で活躍する姿を見て、「お金がなくても将来が開けるんだ」という希望を後輩たちが持ってもらいたいと常々考えています。それは何も社会的に地位のある立場になるとか、そういうことではありません。

「自分で納得できる、イキイキとした人生を自分自身が歩むこと」

「少しでも他のために尽くせる精神を持ち合わせること」

この2点が「活躍」だと、つばめ塾では考えています。
 つばめ塾の講師は、全員ボランティアです。しかし「子どもたちのために教えてあげたい!!」という情熱と善意を持つ人です。つばめ塾の講師は、交通費も報酬もありません。何のメリットもありません。しかし、多くの講師が遠い町から八王子まで教えに来てくれるのは、「子どもたちが一生懸命勉強してくれる姿を見て、自分がうれしい」という善意だけが原動力になっています。
 こういう先生に日々指導を受けた生徒は、自分が大学生や社会人になったときに、
「思い出せば、つばめ塾の先生は私のために、勉強や仕事の後に熱心に教えに来てくれてたんだ」
と思うに違いありません。
 今は、その種まきをしている時なのです。 

◇子どもたちへのあらゆるサポートネットを通して
 通塾している生徒のご家庭のお話を聞くと、経済的にとても厳しいご家庭が多く、本当に心が痛みます。私自身が貧困家庭に育ちましたから気持ちはよくわかります。ですが、それを「嫌な経験」で終わらせることなく、「次の時代を担う人材になるための貴重な経験」へと捉え方を変えてもらいたいと思うのです。
 そのためには、大人のサポートが必要です。放っておいて誰もがそのように考えられるわけではありません。私も周囲のたくさん人の援助で大学に進学でき、夢をかなえることができました。ですから、八王子つばめ塾では、塾生一人一人が持つ希望を「学力面」でサポートさせて頂くと共に、「奨学金制度」を導入しています。
 まず「大学生奨学金」。これは、つばめ塾の講師をしてくれる母子家庭や児童養護施設出身の大学生ボランティア講師に対し、毎月最大2万円を支給するものです。
 次に「塾生奨学金」。これは、つばめ塾に通う交通費を負担し、さらに問題集や参考書をプレゼントします。受験生には模擬試験代も支払います。(希望制です。)
 最後に「高校教科書奨学金」。高校入学時の教科書購入の補助を目的としています。

 現在、お陰さまで成果として受け入れ生徒数がトータルで280名を超え、過去4年での中学3年の卒業生89名の高校進学率は100パーセントです。そして、志望校合格率も80パーセントです。また、「八王子つばめ塾」を見学された方が立ち上げた「無料塾」も、全国で10を超える数となりました。
 私は、「次の時代を担う人材がつばめ塾から必ず出る」と固く、堅く信じて、これからも「八王子つばめ塾」を運営して参りたいと思います。

 DSCF9372まだまだ運営面でも課題はありますが、運営資金はすべて民間の個人や会社からの寄付金で運営し、行政からの補助金や受託事業などは一切受け取っていません。なぜなら、行政からの補助金を受け取ったり、受託事業を請け負ったりすることで、活動にさまざまな制約を受け、“子どもたちのため”の塾が行政機関のための塾になってしまうからです。それでは、本末転倒です。
 人材育成には、「憧れ」が必要です。こんな大人になってみたい。こういう手本になる人が、うちのボランティア講師なのです。1円の得にもならないことを真剣にやる。これが子どもに影響を与えるのです。私には父が憧れの人でした。地元の少年野球のコーチを25年務めた人で、暑い日も寒い日もグランドに立ち続けて子どもたちに教えました。1円の得にもならなくても、人のために力を尽くすことがいかに意義あることかを教えてくれたのです。ですので、父を超えるために「30年間はつばめ塾を続ける」と決意して立ち上げました。

 きっとこの仙台市内、あるいは宮城県においても、まさに6人から7人に1人の割合で、「貧困」なるがために勉強をしたくてもできない、塾に通いたくても通えないでいる子どもたちが周囲に必ずいるはずです。
 私の持っているノウハウでしたら、いくらでもお分けいたします。これで、私の講演を終わらせて頂きます。
 有り難うございました。

《講師プロフィール》

小宮先生小宮位之 氏
 1977年、東京都生まれ。八王子の貧困家庭に育つ。都立高校卒業後、親戚等の援助を受け國學院大學文学部史学科を卒業。私立高校の非常勤講師、映像制作の仕事に従事した後、2012年9月、任意団体 八王子つばめ塾を設立。2013年10月、特定非営利活動法人 八王子つばめ塾を設立し、理事長に就任。現在は、なお私立高校の非常勤講師などの非正規雇用の仕事に就きながら、八王子つばめ塾はもとより、全国の無料塾の立ち上げ、発展に尽力している。

《仙台教会「あおばの会」とは》
 あおばの会は、今日的な社会的課題や仙台教会を取り巻く諸課題に対して、宮城県内の学識経験者を中心とする有識者、地域社会で貢献活動をされている方々にお集まり頂き、対話・交流を深め、熟議を重ね、叡智を結集して、心豊かで住みよい平和社会の構築と実現に資することを目的としています。

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