【こころの彩時記12】菊と約束
- 2018/9/1
- 自分を創る
先月8月、ファミリーで楽しめる夏休みスペシャルとして「100分de名著 for ティーンズ」がNHKのEテレで放映されました。その中で、第3回で取り上げられた『走れメロス』(作:太宰治)を見て、約束の大切さ、友情の尊さを改めて思わせてもらいました。
『走れメロス』のあらすじは、メロスという青年が妹の結婚式のためにある街に出かけます。ところが、この街の王さまが暴君であることをメロスは知ります。正義感の強いメロスは王さまに直談判をしたところ、王さまの逆鱗にふれてメロスが処刑されることになります。
しかし、メロスには結婚式を控えた妹がいるので、無二の親友のセリヌンティウスに、「3日後の日没までに戻って来る」と約束をして、自分の身代になってもらいます。
メロスは妹の住む村への行き帰り、怒涛逆巻く大河を必死で渡り、山賊の襲撃を跳ね除けながら、ただひたすら走って3日後の日没ぎりぎりに戻って来るのです。メロスとセリヌンティウスは互いの友情を確認し合い、しっかりと抱き合い、その美しい姿を見た暴君の王も改心をするのでした。
そして、今月は9月。9日には、五節句の一つである「重陽の節句」を迎えます。陽数の極に位置する「九」が重なることから「重陽」と呼ばれてきました。中国で重陽が正式な節句として認められたのは漢代(紀元0年前後)で、宮廷での菊酒を飲み長寿を祈る習慣が民間にも伝わり、お祝いの日になったといわれています。
ここで思い出すのが、上田秋成によって江戸時代後期に著わされた『雨月物語』(うげつものがたり)の中の「菊花の約(ちぎり)」の物語です。
舞台は戦国時代の播磨の国、現在の兵庫県加古川市。左門という貧しい儒学者がいました。左門は旅の途中、病で倒れた宗右衛門という人物に出会います。左門の献身的な看護によって宗右衛門は一命をとりとめ、二人は義兄弟の“契り”を結びます。
そして、数カ月先の九月九日の重陽の節句に、左門の家で再開することを約束して二人は別れます。
やがて、九月九日、左門は宗右衛門の来訪を待ちますが、宗右衛門はやってきません。やがて夜も更け、左門は諦めかけた時、宗右衛門の姿が現れます。左門は大喜びをしますが、宗右衛門の様子が違います。左門の問いかけに宗右衛門はやっと経緯を話し始めます。
宗右衛門は故郷に帰ると、ある策謀によって監禁状態に置かれてしまいました。どうしようもないまま月日は経ち、重陽の節句を迎えてしまいます。宗右衛門は、「人は一日に千里の道を行くことはできない。しかし、魂ならば一日に千里も叶う」という言い伝えにならい、自害して魂となって左門との約束を守ったのでした。
そのことを語り終えると、宗右衛門は左門に別れを告げ、風と共に消え去っていきました。その後、左門は宗右衛門の仇をとったとのことです。
メロス、そして宗右衛門の「約束」を守り通す信義。「約束」の意味の一つに、前世から定まっている運命、因縁とあります。「約束」を大事に生きていきたい、そんな思いを新たに「重陽の節句」を迎えたいものです。
早く咲け 九日も近し 菊の花
松尾芭蕉